以前、「Cracked Actor」は映画『サンセット大通り』のイメージが使われている、と教えていただき、見なければ!と思いながら、なかなか…だったのですが、先週、バスター・キートンにハマったので、キートンも出ているなら尚のこと見なければ!!と、決意。さっそく&ようやくDVD借りてきて見ました。
『サンセット大通り』(Sunset Boulevard, 1950)
[Trailer] Billy Wilder - Sunset Boulevard - YouTube
主人公はサイレント時代の大女優。
50歳になった現在、仕事はなく、豪邸に引き籠もって執事と暮らしている。
そこに絡むのが金にこまった売れない映画脚本家。
もちろん何も知らなくても面白い映画だと思うけれど、誰がどうそれぞれの役を演じているか、というのが分かると映画のストーリー以上にぞくっとした。
こちらのブログ(*)に詳しかったのですが、とにかくみんな「本物」。
主演のグロリア・スワンソンはサイレント時代に活躍し、この映画の頃は女優をしていなかったとのこと。そのブランクは映画が別ジャンルになったほど大きいものと想像できる。サイレントからトーキーへ。これはアナログ放送からデジタル放送に、フィルムからデジタルカメラへ、という変化よりももっと作り手側にとって根本的な問題。
久しぶりに撮影スタジオに入ったスワンソン演じるノーマが座った椅子の上を「マイク」が移動し、それを邪魔そうに払いのけるシーンが象徴的。
この変化についていけなかったのがバスター・キートン他、「蝋(ワックス)人形」と呼ばれていたサイレント時代のノーマの俳優仲間たち(本物)。
スワンソンとキートン。
キートンのセリフはカードゲーム中の2つだけ。
「パス…」「…パス」。
キートンさん、明らかにこのゲームは負けそうですね…
そして監督が2人登場(本物)。
劇中のセリフで「かつてハリウッドの創世記に最も期待された監督がいたんだ。グリフィス、デミル、そしてもうひとりがこの私だ」が示す3人のうち、デミルがそのままノーマが昔、世話になった監督として登場。
このデミルは実際にスワンソンを出世させた監督。
そして「私」と語ったのが元映画監督で、現執事というマックス役のエーリッヒ・フォン・シュトロハイムその人自身。
ずっと執事として目立たぬよう、しかし細部まで見張っていた彼が、最後に監督として再生するシーンは、スワンソンよりも凄いくらい。
そして劇中にシュトロハイム自身が居間で上映するのが、かつてスワンソン主演・シュトロハイム監督で頓挫した映画そのもの、というのは後で知って鳥肌たった。
彼の映画は凄いらしいので、是非見なければ。
とにかくキートンでサイレント時代のハリウッド映画の凄さを噛みしめた後だったので、この映画は「素晴らしい過去とどうやって対峙するか」という、普遍的なテーマの作品に思われた。その「過去を引きずり出す」という手法が鮮やかで、現実と虚構がリンクするのも心配になるほど皮肉で刺激的。こうしたことをこれほど見事にやってのけた映画はこれ以降もないのかも。
Bowieに繋げると、「デヴィッド・ボウイの音楽は、いつ聞いても古めかしい…と思ってしまいます(…)でも単に古めかしいというのではなくて、彼の「革新」が常に過去を参照しているからではないかと思っています。」というBook Newsの『David Bowie is』評 を思い出した。確かにボウイはキートンだけでなく、様々な「過去」を参照しているけれど、決してなぞっているのではなく、それを提示して壊すことで、新しいものを生み出している。そのことにまつわる辛さと面白さは、『サンセット大通り』の映画の裏ストーリーそのものかもしれない。
Cracked Actor
Trailer: Cracked Actor - YouTube