bowie note

David Bowieをキーワードにあれこれたどってみるノート。

I'll take you with me riding on a golden horse

 

レオス・カラックスの『HOLY MOTORS』は去年見た映画の中で一番、というくらいに気に入った。

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それから寡作なカラックスの過去作を見直ていくと、所謂「アレックス三部作」にはいつもBowieの曲が印象的に使われていたことを知る。

 

『ボーイ・ミーツ・ガール』(1983年)の「When I Live My Dream」は、翌年公開されたジャームッシュの『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(1984年)と同じく、主人公が街を歩く様子を横から同じ速度でカメラが追い、彼(彼女)が持っているラジカセから流れる音楽がそのまま映画全体を貫き流れる。→ ただしジャームッシュの方は実際にラジカセからの音が使われているのに対し、カラックスの主人公はヘッドホンをしており、彼がこのBowieの歌を実際に聴いているのかどうかは、映画的約束事からの推測でしかないのだけれど、外界を遮断するようにこのロマンチックな曲に浸されて夜のパリを歩いていた主人公は、ポンヌフ橋の上で自分よりもこの歌にふさわしそうな恋人達の抱擁に遭遇してしまったため、耳だけでなく目も閉じて、手探りで歩き出す。

大丈夫、この歌は彼のもの。

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カラックスは1991年のインタビューで次のように語っている。

「ロックに興味を持ったのは十歳ぐらいからで、十一、二歳のときにボウイを発見した。(…)アメリカで、僕はある雑誌に通信販売の広告を見つけた。そこには〈これらのレコード三枚お買い上げの方には、さらに一枚を進呈〉と書いてあったんだ。僕がそれに申し込むと、知らない歌手のレコードが送られてきた。それは『イメージ』というボウイの最初期のアルバムだった。」

(『レオス・カラックス ー映画の二十一世紀へ向けて』鈴木布美子、筑摩書房、1992年、28-29頁)

 

汚れた血』(1986年)には有名な「Modern Love」で踊りながら疾走するシーンが。これもまた真横から走る主人公を追うので、縦線の多い背景が車窓の景色のように流れ去っていく。

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このずんぐりしたドニ・ラヴァンのシルエットはホントに『ぼくは天使ぢゃないよ』の林静一の絵に似てる。あがた森魚による同タイトルの歌も、この映画の疾走感に共通するものを感じるのだけれど、こちらは1977年の映画。

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ポンヌフの恋人』(1991年)では目の見えなくなりつつある主人公が恋人に手をひかれて街を徘徊する。そのとき激しく光を点滅させるディスコから聞こえてくる、五感を突き刺すような曲が「Time will Crawl」。


Time Will Crawl (David Bowie) - Les Amants du Pont ...

 

前の二作と異なり、ここでのBowieは主人公の気持ちに寄り添うというよりは、むしろ彼らを疎外するかのよう。ポンヌフ公開当時のインタビューでカラックスは「成功してしまったボウイの現在には興味を感じない」(同上、29頁)と答えている。

 

二人とも好きなので、多様な映画へのオマージュ、パロディを含んだ新作を13年ぶりの長編映画として撮ったカラックスと、10年ぶりにアルバム『The Next Day』を出したボウイのことは重ねて見てしまう。