bowie note

David Bowieをキーワードにあれこれたどってみるノート。

SONG FOR BOB DYLAN

コーエン兄弟の新作『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』を観に行ったところ、予想外にグッときて、一瞬一瞬を噛みしめながら楽しみました。

 


オスカー・アイザックが美声披露!映画『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』本編映像 ...

 

1961年のニューヨーク、グリニッジ・ヴィレッジのフォークシーン。

私たちの世界にボブ・ディランが登場する前夜であり、その温床。

1990年代に再評価が進んだ、あの「ハリー・スミス」の『Anthlogy of American Folk Music』(1952年発売)で紹介された1920〜30年代のアメリカの「庶民の歌」に大いに影響を受けた歌手たちの時代。 

 

Anthology Of American Folk Music (Edited By Harry Smith)

Anthology Of American Folk Music (Edited By Harry Smith)

 

 

ライブ・ハウスにて毎晩さまざまなトラッド・ソングや「古くて新しい」フォーク・ソングが歌われている。

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そんな歌い手の一人が主人公、ルーウィン・デイヴィス。

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彼のモデルになったのはデイヴ・ヴァン・ロンク(Dave Van Ronk, 1936-2002)。


101 Dave Van Ronk Hang Me Oh Hang Me - YouTube

 

そしてルーウィンが所属しているレコード会社のモデルになったのは、ハリー・スミスのアンソロジーを出したフォークウェイズ・レコード、シカゴのライブハウスのオーナーとして出てくるバド・グロスマンは、ピーター、ポール&マリーやボブ・ディランを世に出したアルバート・グロスマン(Albert Bernard Grossman, 1926 – 1986)がモデル。

映画はなかなか思い出せなかった「猫の名前」が全ての成り行きの原因だった、というような粋な仕掛けがありつつ、最後にデビュー前の若きボブ・ディランがライブハウスで演奏しているシーンには胸を熱くさせられる。映画の副題「名もなき男の歌」は、ディランとの対比で付け加えられたのだろうけれど、決して音楽の良し悪しを示しているのではなく、「金の匂いがしない」ということ(良くも悪くも)に関わること。モデルとなったデイヴ・ヴァン・ロンクの歌も、主人公を演じたオスカー・アイザックの歌も、こうした「物語」を背景に持たなければ「金の匂い」はしない(すっごく良いけど)。

人の耳をひっかけてしまう声のザラつきでいうと、ディランの声ってほんとにハッとさせ、そして猫の舌のように吸い付くものだなあ、ということも再確認。

 

1963年のディラン


Bob Dylan - Man Of Constant Sorrow - YouTube

 

映画の主人公、ルーウィンは決して「with no direction home 」な「Rolling Stone」ではなく、罵りながらも「宿(ソファ)」を提供してくれる友人たちと「音楽」がある。

 

* 参照

SHIPS MAG vol.13 | コーエン兄弟最新作、映画『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』の背景をピーター・バラカンさんが解説!

「ハリー・スミスの子どもたち」岡村詩野(『音盤時代 特集:音とことば』2011年夏号、ディスクユニオン)

「倍音と幽霊 〜ハリー・スミスのアメリカ(1)」大和田俊之(『アルテス Vol.2』2012年春号、アルテスパブリッシング)

「倍音と幽霊 〜ハリー・スミスのアメリカ(2)」大和田俊之(『アルテス Vol.3』2012年秋号、アルテスパブリッシング)

 

さて、ディランは1975年〜76年にかけて、「ローリング・サンダー・レビュー」というツアーを決行。これに参加したのが、Bowieの片腕として活躍してきたミック・ロンソン!

(↓ 5:31くらいからその姿が見られます。)


Bob Dylan, Rolling Thunder Review, Tangled Up In ...

 

ミック・ロンソンがまだBowieと袂を分かつ前、Bowieの1971年のアルバム『Hunky Dorry』に収められているのが、その名も「Song for Bob Dylan」。

Bowieがディランに大きな影響を受けていた、ということはその煌びやかなPublic Imageからは意外かもしれないけれど、サエキけんぞうは二人の軌跡を重ねてみており、この考察はなかなか面白い。

 

 「彼の変容をディランにたとえるとおもしろい。『スペイス・オディティ』はディランのファースト、ディランの『アナザー・サイド』が『アラディン・セイン』あたり。そしてディランがロックを導入する『ブリンギング・オール・バック・ホーム』が黒人リズム・セクションを入れる『ヤング・アメリカンズ』、『ハイウェイ61』あたりは『ロウ』。そして、よりファン寄りになる『プラネット・ウェイヴス』が『レッツ・ダンス』というわけだ。」

(「"サウンド&ヴィジョン"に浮かぶ孤独な英雄」サエキけんぞう、『レコード・コレクターズ6月増刊、ブリティッシュ・ロック Vol.2 』1995年、ミュージック・マガジン、110頁)

 

David Bowie 「Song for Bob Dylan


Bowie - Song for Bob Dylan - Dunstable June 21 ...

 

拙訳による歌詞です。

元の詩→

 

ボブ・ディランに捧げる歌」

この歌を聞いてくれ、ロバート・ジンマーマン

君のために書いた歌だ

ディランって呼ばれてるあの奇妙な若者についての歌だ

ザラザラで粘っこい声

真実に満ちた復讐の言葉

それらはぼくたちを釘付けにしてしまったんだ

少なからぬ人々に道を開き、

たいへん多くの人々を恐れさせた

 

ああ、彼女が来る

彼女がやって来る

また彼女がやって来る

おなじみの「ヒメアカタテハ蝶」

あの超絶頭脳で

彼女はこの世を粉々にしてしまうだろう

友達みたいな顔をしながらやって来るんだ

君の古いスクラップブックにある

幾つかの歌なら、また彼女を追い返してくれるだろう

 

あの頃、全ての四畳半暮らしのぼくたちには、君の心が届いた

少なくともぼくの部屋の壁には君の写真があった

そして君は100万人の視線を受けながら座り、

僕らが見ている世界について語ったんだ

だけどあれから、ぼくたちは君との繋がりを失ってしまった

あの絵は全部君自身のものだろ

次々と問題は起こって来るけど、

ぼくたちは一人でいるときよりも、

むしろみんなといる方が怖くなってしまってる

 

ああ、彼女が来る…

 

さあ、聞いてくれ、ロバート・ジンマーマン

ぼくたち、出会うことはないだろうから、

君の親友、ディランに聞いてみて欲しい

またあの懐かしいストリートを眺めてみてはどうか、と

ぼくたち、もう彼の詩を忘れてしまったよって伝えてくれ

みんな壁に詩を書いてるんだけど

ぼくたちをもう一度共鳴させてくれ

ぼくたちにもう一度家族を与えてくれ

君はどんな国家からも亡命してしまうのだろうけど

ぼくたちを正気のままに見捨てて行かないでくれ

 

ああ、彼女が来る…

 

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おまけ:

ミック・ロンソンの最後のソロ・アルバム『Heaven & Hull』(発売は彼の死んだ翌年、1994年)より、Bowieがボーカルをとった「Like A Rolling Stone」


Mick Ronson - Like A Rolling Stone (David Bowie ...